相続税解説【東京の公認会計士】
Pocket

親族からの借入金は相続財産から引けるか?


相続税の申告をするときに、財産から借入金を差し引くことができます。
通常は銀行など金融機関から借り入れるわけですが、場合によっては親族から借り入れることもあります。

◆相続税の取扱いでは、相続開始のさい現に存するもので、確実なものであれば、財産から差し引けることになっています。

子どもや孫からの借入金でも問題ないはずですが、実際の税務調査が入るとかなり厳しく指摘されます。
以前立ち会った税務調査で実際にあったケースです。
(守秘義務があるので前提条件など変えてあります)

相続財産、債務の内訳は、

◆不動産・・・10億円
◆預貯金・・・500万円
◆借入金(銀行から)・・・△5億円
◆借入金(長男から)・・・△5,000万円
◆差し引き純財産・・・4億5,500万円

税務調査で指摘されたポイントは2点でした。

(1) 子どもからの借入金はそもそもおかしい
(2) 返済が1度もされていないので「贈与」になる

「不動産が10億円もあるので、銀行からその分多く借り入れれば良いでしょう?」ということですね。

財産がたくさんあるのに、親族から借り入れるのは、少し矛盾しているような気がしますが、実際に相続の申告では、たまにこういうこともあります。
今ケースでは、
家賃収入は毎月1,000万円近くあるものの、

◆銀行への借入金の返済
◆所得税や住民税、固定資産税など税金の支払い
◆生活費
◆交際費

などの支払いがかなりあり、資金繰りは楽ではありませんでした。

「宵越しの金は持たない」タイプのお父さんで、特に最後の交際費がとても多く、お元気なころは、本当にお元気でした(笑

実際に長男からの借入金はすっかり使ってしまい、1度も返すことはありませんでした。

何に使ったかは家族もまったくわかりません。

調査官には、その通り説明しました。

また、調査官から指摘された2点目の、「返済が1度もおこなわれていないので「贈与」になる」は、税務調査でよく指摘される点です。

「返済がないなら、あげたと同じでしょう」という主張です。

可能であれば定期的に返済することが望ましいのですが、余裕がなければ返済できないことはしかたありません。

今ケースでのこちらの主張は、

(1) 金銭消費貸借契約書(=借用書)が作成されている
(2) 長男からの入金が銀行に振り込まれている

の2点を繰り返し言いました。

(1)は、印紙を忘れずに貼ることです。
また、契約書は2部作る必要はなく1部あれば十分です。

(2)は、お金が振り込まれている証拠に通帳のコピーを提示しました。
長男は父親にお金をあげたつもりは一切ありませんから、
そのことを何度もお話ししてもらいました。

さらに、「借入金をご長男が引き継いでおり、債務が一方的になくなるのは有利すぎるでしょう」とも言われましたが、これは長男から見ると「貸付金」という権利もなくなるので、有利不利はありません。

調査当日は同じことをかなりしつこく指摘され、こちらも同じ主張を繰り返しおこない、ほとほと疲れました。
その後1ヵ月連絡がありませんでしたが、結局、何も問題がなく申告是認となりました。

借用書があり、お金の動きがはっきりしていたので、返済が1度もありませんでしたが、問題なしとなりました。
同様に、亡くなった人の医療費や生活費を、その相続人が立て替え払いした場合も、相続財産から差し引くことができます。
やはり、その書類(領収証、レシート)とお金の動きをわかるようにしておくことがポイントです。
たとえ親族からのものでも借入金があれば、相続財産がその分少なくなります。

- 掲載記事に関する注意事項 -
掲載記事は、すべて執筆時の法規に基づくものです。その後、法規の改訂により内容がそのまま当てはまらなくなる場合もございます。
参考になさる場合は、必ずその時の最新の法規を確認いただければ幸いです。